読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

夢の終わり 中の下

ああ、もう夕暮れね。

でも、私は夜の怖さよりも太陽の光の方が責められているような気がして嫌いだから目が冴えてくるわ。

徐々に彼の体調が良くなっていって、外出だけじゃなくて外泊もできるようになってきたの。当然のように彼は私との時間を選んでくれたから、とても嬉しかった。きっと、入院中の彼を思う私の心が通じたんだって嬉しかった。

彼の家庭がどうとかそういうこと、全く考えなかった。

考えたくなかったし、彼も考えられないくらい私を愛してくれたから、その時はそれでよかったの。

「本当にいつもありがとう」

「何言ってるのよ。何もしてないわ」

「そんなわけない。あの、これ……」

照れ臭そうに渡されたのはミントグリーンの箱に白いリボンが巻き付けられている。これは紛れもなくティファニーだった。

「え、どうしたの?これ」

「お礼」

「こんなの、もらえないわ」

「どうして?俺が勝手にしたことなんだから、受け取ってよ」

箱を開けると可愛らしいハートの指輪が入っていた。

いつ調べたのか不思議に思うほど指輪は薬指にぴたりとはまって、なんだか身も心も彼と一つなったような気がした。なぜだろう。病という大きな壁を二人で壊したからかもしれない。

「ありがとう。大切にする」

え?そうよ、この指輪よ。

私、どうしても捨てられないの。いつまでも、この指輪をつけて不自由でいたがっている。ええ、私は見た目的にはとても自由かもしれない。だけどとても不自由なのよ。

彼が退院する日。彼を迎えに行ったのは奥さんじゃなくて私。

並んで歩く道はもう何度も通った道なのに、彼と歩くからなのかとても新鮮に感じられた。彼はまた私に「ありがとう」と言って、手を握ってくる。握り返す私の手をぎゅっと強く握ってくれた手は……今……。

ああ、ごめんなさい。

それで、彼言ったの。

「旅行に行こうよ。一週間くらい」

思わぬ提案にすごく驚いたけどそれ以上にとても嬉しくて二つ返事でOKしていた。

旅行先は国内か海外かとても迷った結果、国内にした。

北海道。あなた、行ったことある?

旅行当日までの間、私はまるで飼い主が帰って来た飼い犬のように浮足立っていた。美容室にも行って、ネイルもして。事前準備はバッチリだった。今まで何度か一泊二日の旅行は行ったことがあったけど、どれも近場だったからあまり旅行をしているような気になれなかった。

だから、飛行機に彼と乗るなんて夢の話みたいで、本当に楽しみだったの。

旅行自体は本当に観光名所はたくさん回って、美味しい食事をして、温泉に泊まったりホテルに泊まったり。

キスをして手を繋いで抱き合って。

不思議と一度も喧嘩をしなかった。

ずっと私は幸せな気分のまま。彼もずっとにこにこのまま。

ありきたりな言葉を使うとするなら、時間が止まってほしいって本当に思った。

ねぇ、さっきから何手の甲を掻いているの?

もう、虫は生えていないから、本当よ。