〜フルール〜周防高幸の後悔135

「イケメンさん、見ぃーっけ♪」

センターから少し離れた隠れ家のような喫茶店で、中嶋は華につかまった。

「周防先生は?一緒だとおもったのにぃ」

「内科のミーティングです。2時間ほどは他の方と一緒ですから、少し抜けてきました」

「センターには慣れましたか〜?」

「ええ。まあ」

あなたには慣れませんが、と言おうとして飲み込む。

対面に腰掛けられたが、人前で声を荒げるのもおとなげない。黙っていると華が今までとは違うトーンで話し始めた。

「周防先生、とっても良い人なんです。華にも優しいし、看護師さんや介護士さんにも優しいです。もちろん、患者さんにも」

「…?ええ。そのようですね」

「なので、華は時々周防先生を観察しています」

「…??観察?」

「どうしてそんなに優しくできるのでしょう?と、思いましたの。でー、華が観察しててわかったことがあります。あ、ミルクティのミルクいっぱいのやつください。それはですね」

華はテーブルに片ひじをついた。

「周防先生は自分がされたことを他人にはやらない人なんです」

「小さい頃にそういうことは教わるでしょう」

「ええ。大人になってからやるのはハラスメントですよね。大問題です。あの…こっそり教えますけど…周防先生、大概のことされてます。…おしりさわられるとか、胸さわられるとか、髪をひっぱられるとか、これはまぁまだ、セクハラのたぐいですけどもー」

あと、アルハラアカハラドクハラ

「暴力行為だけはなかったみたいですけど。乱暴されかけるとかはあったみたいです」

「…はぁ…?!」

「華だったらカクジツに相手を道連れにする方法でサクッとやっちゃいますんですが。周防先生はやらないんです」

なぜやらないのかと憤りを持って聞いたことがある。

「めんどくさい。っていわれちゃいましたー」

「…めんどくさい?」

「いちいち相手にしていられないから、どうでもいい。って」

「そんな」

「そういうヤな思いをいっぱいしてきてるのに、んー?してきてるから、かな。周防先生はやさしいんです」

華は初めて周防に会った時から周防に興味を持った。

モロゾフのプリンという手土産のせいもある。

キレイだし、礼儀正しいし、なによりカワイイ。

カワイイは大正義だ。

こういう人は、眺めて愛でるものだと華は思っている。

「でもね。顔や体型をほめてもなついてはモラエマセン。周防先生がなついている人はみんな周防先生の仕事ぶりとか、スタンスとかをちゃんと見てる人なんです」

華の両目がキラーンと光った。

「イケメンさんに周防先生がなつくかどうかはイケメンさん次第なのですよ!」

中嶋は思わず額に手をやった。

「なぜそうなる…」

「イケメンさんはこれからしばらく周防先生と行動するでしょ。全然なつかれてないより、なついてるほうがお仕事しやすいと思うのですよー」

「私は仕事ですから、なつかせるとかどうとかは…」

「だめです!周防先生がイケメンさんになついているところを華ちゃんがみたいのです!」

…わからん。理解出来ん。

「周防先生が、なついているひとに見せる表情なんてホントにホントにカワイイんです。そういうとこも含めて、ちゃんとみてあげてください。華ちゃんの切なるお願いです」

ぺこ、と頭を下げられて中嶋は困惑した。

「私は単なる仕事の一環で周防先生のそばにいるだけです。それ以上のことはありません」

華はふいっとオーダーレシートを持って席を立った。

「…けち」

ぷんっと顔を逸らして帰っていく。

あとで支払いをしようとすると『お連れさまにいただきました』と言われた。

おごられる理由もないが、金を渡そうとしても多分受け取らないだろう。

やれやれ。